それは小学1年生の秋のことだった。

 でも、今回話すのは月村さんともある程度交流を深めた後のことだけどな。

 俺は休日に1人でぶらぶらと商店街を歩いていた時、ふと女の子向けの小物屋のショーウインドウに飾られていたヘアバンドに目がいって足を止めた。

 あれ、月村さんに似合いそうだな。

 何となく、そんな風に思った。

 彼女の誕生日が近いわけでもなかったけれど(そもそも月村さんの誕生日がいつかすら知らなかったんだが)、何故かすぐにプレゼントしようと決意していた。

 ただ、値段も小学生でも手を出せるほどの安物だったので、お金持ちの彼女が喜ぶかどうかは自信はなかった。

 けど、あの頃の俺は一度決めたら多少の懸念があっても無視して、やり遂げるほどの無鉄砲だった。

 しかし、少女向けの店に入るのはさすがに恥ずかしかったので、辺りに知り合いがいないことを確かめてから店に入って、ショーウインドウに飾られていたのと同じヘアバンドを1つ持って、レジでお金を払って袋に入れてもらった商品を受け取って、そそくさと店から出た。

 ……というところで、仲良くはないが知った顔とばったりと遭遇した。

「あれ? こひなたくんだ」

「!?」

 当時クラスメイトだった高町さん。

 話すら殆どしたことがなかったが、家が近所だったため、時々顔を見かける彼女は、珍しく当時の俺も名前は知っていた。

「こんなところで会うなんてめずらしいね」

「……」

 にこやかに声をかけてくる高町さんに、俺は女の子向けの店から出てきたところを見られたというショックでうろたえて何も言えなかった。

 そして、無言のまま俺は。

 ダッ!

「え? な、なんでにげるのー!?」

 彼女を無視するように家とは反対方向に駆け出した。

 女の子向けの店から出てきたところを見られて恥ずかしいって感情で何も考えられなくなっちゃったんだろうな。

 で、10分ぐらい走って、通学路の途中にある公園に駆け込んだ。

 そして、追いかけて来てないだろうと思い込んだまま息を整えていたら。

「はぁはぁはぁ……。もう、いきなり、にげるなんて、ひどいよ」

 後ろから知った声を聞いて驚いて振り返った。

 そこには、息を乱して顔を汗だくにした高町さんの姿があった。

「な、なんで……?」

 おいかけてきたの?

 そう聞こうとするより、彼女の方が先に口を開いた。

「わたし、なにもしてないのに、こえをかけただけで、いきなり、にげるなんて、りゆうをきかないと、なっとくできないよ」

 息を整えながら、高町さんが俺への不満を言葉にした。

 こんなことまで言われて、普通なら俺は突然逃げ出したことを謝らないといけなかったのに、俺はその時の本心を言い訳がましく口にした。

「……見られたから」

「え?」

「おんなの子のみせから、でてきたところ見られたから。はずかしいじゃんか」

 俺が唇を尖らせて、あの時高町さんから逃げた理由を吐露して、馬鹿にされるんだろうと予想して待ち構えていたが、彼女の方はきょとんとしていた。

「おんなの子のおみせにはいってたんだ」

 この言葉を聞き、俺は高町さんが少女向けの店で買い物をしていたことを知らなかったのだと分かって、彼女に知られてしまったと思い、かなり恥ずかしい気持ちになった。

「…………言わなきゃよかった」

 俺は更にいじけて、彼女に背を向けて出口を向いた。

 知られたくないことを逆に教えてしまったというショックを受けたんだろうな。

 しかし、歩きだそうとしたところで、高町さんに腕を捕まれ再逃亡を阻止されてしまった。

「だから、にげなくてもいいじゃない!!」

「……だって、ばかにされたくないし」

 女の子向けの小物屋で買い物したことを。

 だが、その当時の予想に反して、高町さんは俺の言葉を否定した。

「そんな、おんなの子のおみせでおかいものしたぐらいで、こひなたくんのことばかにしたりしないよ」

「……ほんとうに?」

 彼女の言葉をすぐに信じることが出来ず、しつこく確認した。

 あの頃は高町さんと殆ど話をしたことが無かったから、すぐには家の近くに住む女の子の言葉を信じられなかった。

「ほんとうだよ。もし、こひなたくんがかくしていたんなら、だれにも言うつもりはないし」

「じゃあ……ゆびきりしてくれたら、しんじてやる」

 おずおずと俺は右手の小指を彼女に向けて差し出した。

「うん、わかった」

 すぐに頷いて、自分の指を差し出した俺の手に絡ませ、どちらかともなく口を開いた。

「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼん、のーます」」

 思わず声が重なったことを笑ってしまいたくなる気持ちを抑えるのが大変だった。

「「ゆびきった」」

 お互いの手が離れて、契約成立。

 その時、ふと、高町さんの顔を見てみると、彼女は何故か嬉しそうな表情をしていた。

「なに、わらってんの?」

 俺はそれを見て馬鹿にされたとでも思ったんだろう、いじけながら聞いてみると、高町さんが慌てて手で謝るポーズを作ってから、理由を教えてくれた。

「だって、はじめて、こひなたくんと、ちゃんとおはなしできたから」

「それはそうだけど、なんでそれぐらいでよろこんでるのさ?」

 今までも高町さんとクラスの中で、何度か話しかけられたことはあったけど、その都度素っ気無い対応したり、ぞんざいに扱ったりしていたから、彼女の言うとおり、まともに話をしたのはこの時が初めてだったと思う。

 でも、あれぐらいのことで、彼女が嬉しそうにするのは理解出来なかった。

 訳が分からないでいると、高町さんの方から、理由を教えてくれた。

「わたし、こひなたくんのこと、ずっと気になってたから」

「気になってた?」

「うん。がっこうでもだれともなかよくしようとしないで、ずっと1人でいたのがほうっておけなかったの。

それに、いえもちかいから、よけいにね」

 彼女の言葉を聞いて俺は何も言えなくなった。

 そんな風に気にかけてくれた彼女をぞんざいに対応していたことへの罪悪感と自分への恥ずかしさのせいだった。

「……ごめん」

「べつに気にしてないよ。今日、ちゃんとおはなしもできたから」

 そんなこと言って微笑む彼女がとても眩しく見えた。

「ところでさ」

「なに?」

「おんなの子のお店で何を買ったの?」

「……」

 さすがにそこまで教えるのは恥ずかしすぎたので、無言で逃げ出そうとした。

「だから、こたえにくいこと聞かれたからって、すぐにげようとしないのー!」

 結局、怒られて逃亡は失敗に終わったが、俺が答えたくないという気持ちは察してくれたのか、彼女が深く追求することはしなかった。

 この日は、高町さんが別の用事があるということで、公園を出たところで別れた。

 

 

 次の日の昼休み。

 屋上で月村さんと一緒に弁当を食べながら、昨日買ってきたヘアバンドをポケットに忍ばせて、内心の緊張を隠しつつ、渡す機会を伺っていた。

 しかし、飯を食べている間には、さりげなくラッピングされた紙袋を出すチャンスが見つからず、当たり障りの無い雑談をしているうちにお互いに昼飯を食べ終えてしまった。

 2人並んでしばらく一服した後に、俺がプレゼントをいつ渡すか迷っていることなんて全く知らない様子で立ち上がった。

「そろそろ、きょうしつにもどろっか」

「ちょっ、ちょっとまって!」

 屋上を出ようとする月村さんを反射的に呼び止める。

「……?」

 俺の声にきょとんとした様子で振り返ってきた月村さん。

 そんな彼女の視線を受けて、テンパりながらも俺は、覚悟を決めてポケットの中に手を入れた。

「あ、あのさ……これ」

 紙袋を取り出してから、中身を見せた。

 しかし、昨日買ってきたヘアバンドを見せても、彼女は状況が分かっていなかったようで、反応が薄い。

 まぁ、何の説明もしてなかったから仕方ないけどな。

 それは幼かった俺にも分かっていて、本音を打ち明かした。

「きのう、みせで見かけて、つきむらさんににあいそうだなぁって思ってかってきたんだけど……どうかな?」

「わたしに……?」

 俺の言葉を聞いて、この頃の学校の中で唯一の友人の少女が驚いたように目を見開いて固まった。

 こんな彼女の反応を見て、俺は迷惑だったかとでも感じたのか慌ててヘアバンドを引っ込めようとした。

「や、やっぱり、たんじょうびでもないのに、いきなりわたされてもこまるよね」

「そんなことないよ!」

 だが、月村さんは俺の言葉にすぐに首を横に振って、直そうとしていたヘアバンドに手を伸ばし掴んだ。

「これ、もらっていいの?」

 確認するかのように聞き返されて、すぐさま頷いた。

「うん。だけど、ぼくのおこづかいでかえるようなやすいものだから……」

 大きな家に住んでる月村さんには気に入ってもらえないかもしれないと、不安に思って声のトーンが下がっていったが、それを彼女の方から吹っ飛ばした。

「おねだんなんてかんけいないよ」

「でも……」

「わたし、うれしい。おともだちからプレゼントをもらうの、はじめてだったから……」

 照れたようにそう話す月村さんが可愛くて、思わずドキッとしてしまったことは覚えている。

「あの……さっそくつけてもいいかな?」

「も、もちろんだよ! つきむらさんにつけてほしくて買ったんだから……」

「そっか。そうだよね。……じゃあ、つけるよ?」

 俺が無言で頷くと、月村さんは遠慮がちに自身の髪の上に俺が渡したヘアバンドを付けた。

 その姿は俺が見本を目にした時に想像していたよりも似合っていて、より可愛く見えた。

「どう……かな?」

 恥ずかしそうに俺に感想を求める月村さんの姿にドギマギしながらも、素直に思ったことを口にした。

「と、とてもにあってる。すごくかわいいよ!」

 すると、月村さんが頬を茹で蛸のように真っ赤にして、俯いてしまった。

「あ、あ……ありがとう」

「うん……」

 俺も彼女の顔を直視出来ずに目線を下に落として、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、禄に話すら出来ずに固まっていたのだった……。

 

 

 その日の放課後。

 俺は何とかヘアバンドを付けた月村さんの可愛さに慣れて、ようやく顔を見て話を出来るようになったが、月村さんの方は何か言おうとしては顔を逸らしてしまうようなことを繰り返していた。

「あ、あのね。ゆ……ゆ…………こひなたくん」

「何?」

「えっと…………ま、また明日ね!」

 結局、彼女が何を言いたかったのか分からないまま、教室に1人取り残されてしまった。

 ……俺が一緒に麻衣のところまで遊びに行こうって誘う前に帰ちゃったけど、今日は何か習い事でもあったのかな?

 そんなことを思いながら、俺はゆっくりと教室を後にした。

 

 

 月村さんにヘアバンドをプレゼントした次の日の昼休み、事件は起こる。

「あのね……ゆ……ゆ、ゆ……ゆう…………こひなたくん」

「何かな?」

 俺達はいつものように屋上で弁当を食べていた。

 まぁ、月村さんは昨日に続いて何か言いたいことはあったけど、それを口に出来ずにもどかしそうにしていて気にはなったが。

 だが、平和であったことは間違いない。

 しかし、それをぶち壊す空気の読めない少女が現れた。

「ふん。おく上でイチャつくなんて、あぶれもののクセに、いいみぶんね」

 それを見て、月村さんが怯えたように顔を青褪めた。

 俺も眉をひそめる。

 当時、あまりクラスに溶け込んでいなかった俺だけど、そいつは目立っていたから名前は知っていた。

 アリサ・バニングス。

 何でも、アメリカ出身の天才少女ということでいい意味でも悪い意味でも目立つ存在だった。

 俺は禄に口すら聞いたことが無かったけれど、月村さんの方は俺と仲良くなる前から時々嫌がらせをされていたらしい。

 その時のクラスの立ち振る舞いも高圧的で見下すような態度を取っていたため、俺自身もあまりいい心情は抱いていなかった。

「……こんなところに何のようさ?」

 俺は警戒心を隠さずにバニングスに声をかけた。

「べつに。ただ、きょうしつのマズい空気を、1びょうでも長くすいたくなかったから外にでてきただけよ」

 俺達を明らかに下に見るような態度で言葉を返すバニングス。

 ……実際、結構本気にお前達とは出来が違うとでも思ってたんだろうなぁ。

 ま、今となってはどうでもいいことだが。

 閑話休題。

 月村さんはバニングスが現れてからは、俺の背中に隠れて制服の袖を掴んで怯えていた。

 まだ、飯は食い終わっちゃいなかったし、俺だけならバニングスは無視すれば問題はなかったが、気が弱い彼女にとっては、高圧的なクラスメイトと同じ場に居合わせているだけで、胃が痛くなるような思いをしていたということは分かったので、弁当を直して立ち上がった。

「つきむらさん、いこうか」

「……ごめんなさい。わたしのせいで」

「ううん。食べたくなっただけだから気にしないで」

 屋上以外にも人が集まらない、静かに飯を食えるいくつかのスポットを頭に思い浮かべながら、月村さんの手を引いてバニングスの隣を通り過ぎる。

「ふん」

 バニングスは屋上を去ろうとする俺達に見向きもせずに1人屋上に残るのかと思っていたのだが……。

「あら? なにかしら、これ?」

「!?」

 しかし、態度がでかいクラスメイトは月村さんの頭から俺が前日にプレゼントしたヘアバンドを抜き取った。

「こんなもの、ふだんつけていなかったわよね? このあぶれ男にたいしてよく見られようとみえはっておしゃれでもしてるつもりかしら?」

「……ちょっと、バニングス」

 親しい人間が虐められるのを放っておけない性分だったせいか、ついつい苛立たしげな声をあげてしまう。

 が、バニングスが俺の方を向くより前に、自分の髪に付けたアクセサリを取られたいつもは大人しい紫色の髪の少女が、傲慢なクラスメイトに接近した。

「…………かえして」

「あ?」

「かえしてよ。それは――」

 前から自分から何も言い返せないと分かって嫌がらせをしてくるクラスメイトが怖かったんだろう。

 彼女の体はすごく震えていた。

 けれど、自身の意志を伝えるまで引く気配もなかった。

「それは、ゆうまくんにプレゼントしてもらっただいじなものなの! だからかえして!!」

「……なによ」

 いつもされるがままで何も言い返すことのなかった月村さんが、反抗してきたことが気に食わなかったのだろう。

 バニングスが顔を歪めた。

 そして、月村さんから奪ったヘアバンドを力の限り引っ張り――。

「こんなものっ、こうしてやるわ!」

「あっ!!」

 ついには引きちぎってしまった。

「ふん、あたしにさからうからわるいのよ」

「……っ」

 月村さんは悲しみのあまり、目に涙を一杯溜めて体を震わせていた。

 俺はそんな彼女を見て心臓が震えて、頭が熱くなったことを覚えている。

「ひっく……うわーん!!!」

 最後には堪えきれなくなった月村さんは号泣してしまう。

 それを見て、俺の頭に更に血がのぼった。

 一方で、バニングスはそんな彼女を嘲笑った。

「そんなみっともなくないちゃって、ぶざまね」

 その言葉を聞いて俺の中で何かが切れて、衝動的に体がバニングスに向かって動きだした。

「よくも、すずかをなかせたなぁ!!!」

 そして、全力で彼女の顔を殴りつけた。

 バニングスは尻餅をついて、俺が殴った左頬を押さえて、しばらく呆然としていた。

「なに、すんのよ!!」

 だが、すぐに立ち上がり、怒りを露にして殴り返してきた。

 そのパンチは小1なのにかなり痛かった印象が残っている。

 ……まぁ、本人には言ってないけど。

 言ったらそれ以上に強いのもらいそうだしな。

 閑話休題。

 そこから始まったのは取っ組み合い殴り合いの喧嘩だった。

 とにかく、その時の俺は頭に血が上っていて。

「すずかに、あやまれ!」

 としか言っていなかった気がする。

 しかし、バニングスも自分の非を頑として認めようとしなかった。

「あぶれもののくせに、なまいきよ!」

 どんどんとエスカレートしていく俺とバニングスの喧嘩に、ついには泣いていた月村さん(この時感情的になったから名前呼びしてただけで、普通なら苗字で呼んでいた)も、

「2人ともやめてー!!」

 俺達を止めようとしていた。

 けど、俺達は一向に止めようとせずに喧嘩を続け、もう1人の少女が登場することとなった。

「そこまでにしたら?」

 パン! パン!

 いきなり現れた少女は、俺とバニングスの頬に1発ずつビンタを加えた。

 俺達が振り向いたその先にいた彼女は、クラスメイトの高町なのはだった。

「アリサちゃん、あなたにはたいせつなものをこわされたかなしみが分からないの!? こひなたくん、いくらつきむらさんのためだからって、おんなのこをいきなりなぐりつけたりしたらだめだよ!!」

 高町さんの言うことは最もだった。

 けど、幼かったのに加えて、頭に血が上っていたせいで、彼女の言葉にまで逆上してしまい、最終的には3人で掴み合いの喧嘩になってしまった。

「みんなやめてー!!!!」

 そして、昼休み終了のチャイムの少し前に月村さんの一際強い言葉によって止まったのだった。

 

 

 放課後、俺達の喧嘩を知った担任の先生が激怒し、俺、高町さん、バニングスの親を呼び出すまでの大騒動になった。

 ……いや、本来は子供の喧嘩に親が首を突っ込むつもりはないってそれぞれの親は言ったんだけど、娘を傷つけられたと聞いた高町さんの父親と兄、バニングスの父親が駆けつけて、俺にそれぞれ1発ずつ鉄拳制裁をして、それぞれの親が自分の子供を叱るってだけで済んだっていうのが正しい結末だったけど。

 で、帰ってから、親父にも殴られたし、かーさんからみっちり叱られた。

 その日唯一救われたことは、いつもの公園に俺が来なかったことを心配して電話をかけてきた麻衣が俺から事情を聞いても、頭ごなしに怒らないでいてくれたことだった。

 今考えれば、俺がした行為は叱られお仕置きされて当然の愚かなものだったが、まだ精神的に未熟だった俺は、何で自分だけこんなにやられなきゃいけないんだ、すっかりいじけてしまい、親父とかーさんとみっちり叱られた後は、飯も食わずに自分の部屋の中に閉じこもりっぱなしで夜を越した。

 で、陽が変わって陽が昇ってからも、物理的な痛みはほとんど癒えたものの、精神的な痛みはまだ残っていて、学校に行く気なんてとても起きなかった。

 かーさんもそれを察してくれたんだろう、確実に遅刻する時間になっても学校に行くことを強いることはなかった。

 そこからしばらくして、かーさんも仕事に行って家の中に誰もいなくなってから、昨晩から何も食っていなかっただけあってさすがに腹が減ったので、食べるものを探そうと部屋から出てリビングに行ったら飯が用意されていた。

 用意してくれたのが誰なのか。

 そんなの、今思えばすぐに分かることだ。

 だが、俺はそんなかーさんの気遣いに感謝の気持ちを抱くこともなく、置いてあった食事を平らげて部屋に戻った。

 しばらくベッドの上でぼーっとしていたが、急に昨日の月村さんの姿が頭に浮かんできた。

 ――俺がプレゼントしたヘアバンドをバニングスに壊されて、とても悲しんでいたな、と。

 代わりのを買ってくるべきか?

 そう思って財布の中身を見ると、同じものを買えるだけの小遣いはもう残っちゃいなかった。

 確かにあれは小学生にも手が届く値段ではあったが、それでも小1のガキからすれば1個買ったら小遣いの半分以上が吹っ飛ぶような金額だった……気がする。

 なので、次に小遣いをもらえるまで待つしかなかったのだが、それだと壊したバニングスが弁償するか何かして代わりのものを手に入れてしまうだろうと思った。

 それは何故か嫌だと思った。

 もう子供の頃の話なので、その理由なんか覚えちゃいないが、多分、一番最初にあのヘアバンドが月村さんに似合うと思った男としての小さなプライドだったんだろう。

 何にしろ、どんな理由があっても、俺が代わりを買うことに拘っていた。

 金はないので手に入れる方法は禄に無かったけれど、家でじっとしてもいられなかった。

 なので、そそくさと私服に着替えて、リビングにあった俺が学校に行くかどうかも分からないのにかーさんが用意してくれた弁当を持って玄関を飛び出した。

「おはよう」

 だが、俺の足は、ここにいるはずのない少女の声によって止められてしまった。

 前日の喧嘩に止めに入って巻き込まれた結果、顔にいくつか絆創膏を貼る、制服を着たクラスメイトの高町さん。

 そんな彼女が、何故かもう学校はとっくに始まっているというのに家の前にいた。

 俺は訳が分からなくなり、意味不明なことを口にしてしまった。

「がっこう、ずる休みしちゃ、いけないんだよ」

「せいふくもきないで、どこかに行こうとしてるこひなたくんに言われたくないよ」

「……」

 至極当然のように揚げ足を取られた俺は、少し頭を掻いてから高町さんに対して思っていた疑問を口にした。

「どうして、たかまちさんがぼくのいえのまえにいるのさ?」

「こひなたくんといっしょにがっこうに行こうって思ったからだよ」

「そうなんだ。でも、ぼくは行かないよ」

「うん。ふつうのふくをきてるのを見て、ずる休みしようとしてることはわかったよ」

 悪いことをしているのに、彼女は俺のことを非難するようなことはなかった。

 そんなツインテールのクラスメイトの態度を不思議に思った俺は、つい聞き返してしまう。

「……おこらないの?」

「わたしだって、きのうおとーさんやおにーちゃんにいっぱいおこられちゃったら、今日はがっこうに行こうって思えるだけのげんきがでてないとおもうから」

 とりあえず、俺が学校をサボろうとしたために、自分までもズル休みする羽目になったことを怒る気は無かったらしい。

 相変わらず、変な子だなと思って顔を見て、両頬に見える絆創膏を見て、とても申し訳ない気持ちになった。

「その…………かお、だいじょうぶ?」

「ふぇ? あ、うん、もうあまりいたくはないよ」

「……そう」

 無性に、ホッとした。

「こひなたくんこそ、おとーさんやおにーちゃんたちにおしおきされたとこ、いたくない?」

「うん。いたみは、ひいたよ」

「よかったぁ……」

 とても安心したように微笑んだ高町さん。

 まだ友達とも呼べない程度の間柄なのに俺の体のことを自分のことのように心配してくれるこの子は、やっぱり変な子だなと思った。

「あのさ」

「なに?」

「がっこう、たかまちさんだけでも今から行ったほうがいいと思うよ」

「こひなたくんは、行かないの?」

「…………ごめん」

 高町さんと話が出来て少しは気分も晴れてきたが、まだ行こうという気にはなれなかった。

「……そっか」

「でも、あしたは行くから」

 別に近所に住むクラスメイトの少女を安心させたくて言ったわけじゃなかった……はず。

 つか、昔の一挙一動ごとにどんなことを考えてたってことを全部覚えてる奴は化物じゃないだろうか。

 ……おっと、話が逸れたな。

 何にしろ、高町さんのおかげで何とか立ち直れそうとは思えたのは確かだ。

 だから、結構本気で明日は行こうと思えた、に違いない。

「うん。じゃあ、あしたこそ、いっしょにがっこうに行こう?」

「……わかったよ」

「やくそく、だよ?」

 俺は無言で頷いた。

「じゃあ、またあした」

 俺は高町さんがこれから学校に行くと勝手に思い込んで、家の中に戻ろうとした。

 ……が、背を向けた瞬間、がっちりと腕を掴まれて止められてしまった。

「……たかまちさん?」

「どこか、がっこうじゃないところに行こうとしてたよね。行かなくていいの?」

「…………いいんだ」

 月村さんの壊されたヘアバンドの代わりも俺が買ってプレゼントしてあげたいという思いはあったけれど、金がないんじゃどうしようもなかった。

 どうしても手に入れたいからって万引きしようとはさすがに思えなかった。

 俺が悪いことをしたら、麻衣や月村さんといった友達だって悲しむだろうって小さい頃から分かっていたから。

 店まで行っても、自身の無力さを思い知るだけなんてこと、行く前から分かってた。

 それでも、最初は衝動に駆られて行こうとしたけど、高町さんに会って頭が冷えた。

 だから、この日は家で大人しくしていようと思った。

 ……けれど、それを許さなかったのが、他ならぬ高町さんだった。

「わたし、行きたい」

「たかまちさん?」

「こひなたくんががっこうをズル休みしてまで行きたかったところに、わたしがいってみたいの。つれて行ってくれる?」

「え? だけど、がっこう……」

「いいのっ。……ほんとうはよくないけど。けどわたしは、あなたのこと、もっとよくわかりたいの。

こひなたくんが、どこに行ってなにをしたかったのかしることのほうが、わたしにはがっこうよりもだいじなんだ」

「なんで……ぼくにここまでかまうの?」

 この頃の俺は、自分のせいで実の母親に捨てられたんじゃないかとでも考えていたこともあって、自分で言うのもなんだが、到底人から好かれるような性格ではなかった。

 だから、学校をサボってまで知ろうとするほどの人間じゃないと思っていた。

 なのに、近所に住んでいて一緒のクラスで勉強しているというぐらいしか接点のない俺に、どうしてここまで関わろうとするのか本気で理解出来なかった。

 まぁ……次に言われた言葉が一番理解出来なかったんだけどな。

「なんでって……わたしは、あなたとおともだちになりたいからだよ」

 どうしてそんなこときくの? とでも言いたそうな顔できょとんと首を傾げていた。

 もう、訳が分からなかった。

 けど、その言葉を聞いて、彼女だけでも学校に行かせようと説得するのは諦めた。

 色々と考えたって彼女の心が分かるはずもないし、何を言ったって俺が行こうとしてた小物屋に連れて行かない限り、この子はずっと家の前で待ちかねかねなかったから。

 なので、最後に1回だけ念押ししといた。

「今日、がっこうをズル休みしたのを、ぜったいに、ぼくのせいにしないでね」

 格好の悪い念押しだった。

 けど、高町さんの父親と兄のパンチがすごく効いて、もう食らいたくないって思いが強かったから、仕方ないんじゃないかと今の俺でもそう思う。

「あたりまえだよ。わたしが、あなたとなかよくなりたいってわたしがおもったから、がっこうをズル休みしたの。

もし今日のことで、おとーさんたちがこひなたくんのことをおころうとするなら、この子はなにもわるくないからおこらないでって言うから、しんぱいしないで」

 俺の心情も汲んでくれたのか、高町さんはそんな気遣いまでしてくれた。

 彼女の優しさに胸を打たれたのか、可愛さに当てられたのかは分からなかったけど、とにかく直視出来なくなって背中を向けて、ヘアバンドを買った小物屋を目指して歩き出した。

「わわっ、まってよ〜!」

「……おくれないでね。もしはぐれたら、ほうっていくよ?」

「そんなぁ、ひどいよ〜」

 背中から俺と友達になりたいと言ってくれた少女の抗議の言葉を受けながらも、少し早足で足を進めた。

 それは、可愛い女の子に対する悪戯じゃなくて、ただ照れて真っ赤になった顔を見られたくなかったという子供なりの見栄だ。

 この感情は、10年以上経った今でも覚えている。

 

 

 家を出て駅に向かって2人で30分ぐらい歩いて、ようやく目的の店に辿り着いた。

 ちなみに、店に行くまでの間、高町さんが色々と話しかけてきたのを、俺が素っ気なく言葉を返すというのが延々と続いた。

 この時、彼女に対する言葉が味気ないものになってしまったのは、彼女をウザッたく思ったわけじゃなくて、相手のことをよく知らないから戸惑っていたのだろう。

 …………多分。

「あれだよ」

 俺が店の前でショーウィンドウに飾られていた月村さんにプレゼントしたヘアバンドを指さした。

「ぼくがこの前の休みに、きみにこのみせからでたのを見られたときにかったものがあれなんだ」

「そうなんだ。ゆうまくんがつけるためにかったわけじゃないよね?」

「うん。……って、あれ?」

「なに?」

「いや、さっき、ぼくのこと――」

 ――なまえでよばなかった? と質問を全部言葉にするより先に、高町さんが頷いた。

「だって、わたしたちともだちになったんだもん。なまえでよぶのがあたりまえでしょ?」

 さも当然のように言い切る高町さんに、俺は困惑するばかりだった。

「そうは言うけど、まだたかまちさんと――」

「なのは」

 俺の言葉を遮って自分の名前を口にした。

「わたしはゆうまくんってよんでるんだから、あなたもわたしのことなのはってよばないとだめだよ」

「で、でも、高町さん」

「つーん」

「あの、高町さん」

「……」

 数回高町さんと呼んでみたが、完全に無視されてしまった。

 いきなり女の子のこと名前で呼ぶなんて恥ずかしいのに……。

 そんな内気な考え方をしていた俺だが、さすがに観念するしかないと思った。

「その……あの……なのは、ちゃん?」

「もう1かい!」

「なのは……ちゃん」

「うんうん!」

 満足そうに頷いたなのはちゃん。

 けど、俺からしたら、あまり話したことがない女の子のことを、いきなり名前で呼ぶのはやっぱり恥ずかしくてしょうがなかった。

「…………やっぱり、たかまちさんってよんだらだめかな?」

「だめです」

 俺の願いは、にっこり笑顔でばっさりと切り捨てられたのだった。

「うう……はずかしい」

「おとこの子なのに、こんなことではずかしがるなんて、ゆうまくんったらへんな子だね」

「なのはちゃんには言われたくないよ……」

「だけど、つきむらさんのことはなまえでよんでたじゃない」

 なのはちゃんが言っていたのは、昨日のバニングスとの喧嘩のことだ。

 それ以外で、俺はこれまで月村さんのことを名前で呼んだことは1度も無かった。

「あれは、つきむらさんがないていたのを見てたら、あたまがまっしろになったから、ついよびすてにしちゃっただけで……」

「そうなんだ。じゃあ、わたしだけなんだ。ゆうまくんがなまえでよんでいるのは」

 この時点で、俺がなのはちゃん以外で常に名前で呼んでいた女の子は麻衣だけだった。

 だから、近所に住む俺に友達になりたいと言ってきた変わった少女が、学校の知り合いで名前を呼び合うようになった最初の人物となった。

「うん。がっこうだけだと、そうだね」

「? ゆうまくんには、ちがうがっこうのおともだちがいるの?」

「あ、うん。ちょっとはなれたところにいえがある、いつもいっしょにあそんでるおんなの子のともだちがいるんだ」

 勿論、麻衣のことだ。

「ふぅ〜ん。ねぇ、わたしにも、その子に会わせてくれる?」

「いいよ」

「あれ? ちょっとはいやがるかなぁっておもったんだけど」

「つきむらさんとはもう会ってなかよくしてるからね。なのはちゃんともきっとなかよくなれるとおもうから」

「なるほどね」

 これで俺の当時の友人関係についての話は終わって、ヘアバンドに関する話になった。

「ゆうまくんはあのヘアバンドをプレゼントした子って、ちがうがっこうのおんなの子?」

「ううん。つきむらさんだよ。ちょっと見ただけで、あの子ににあうなぁって思ったから」

「そうだったんだ」

「うん。でも、きのうバニングスにこわされちゃったから、あたらしいのをプレゼントしてあげたいっておもったんだけど、おこづかいがなくてかえないんだ」

 名前で呼びあうようになってからは、なのはちゃんに対して割と素直に思っていたことを話すのにあまり抵抗感が無くなった。

 隠していてもしつこいぐらいに粘られて最終的には話してしまうことになると悟ったからなのか、それとも彼女のことを友達として認めたからなのかは分からないが、少なくとも、もう少し変わったただのクラスメイトだとは思っていなかったことは確かだ。

「じゃあ……わたしが、お金をかしてあげようか? おこづかいによゆうあるから」

「いや、いいよ」

 折角の申し出だったけど、すぐに断った。

「えんりょしなくてもいいよ?」

 別に、情けを受けるのが惨めだと思ったから跳ね除けたわけじゃない。

 断ったのにはちゃんと理由があった。

「そうじゃなくて、なのはちゃんからお金をかりて代わりのヘアバンドを買ってあげても、つらそうなかおしちゃいそうだったから」

 月村さんは人見知りな性格だったから、自身と仲が良いわけじゃないなのはちゃんのプレゼントのような形だと素直に喜ばずに、逆に申し訳なさそうにしちゃうような性格だった。

 俺がプレゼントした時は抵抗なく受け取ったのは、彼女が俺に心を許していたからだと思ってたし。

「そうかなぁ……?」

「それと、ぼくもじぶんのおかねで買ってプレゼントしてあげたいって思ってるからね。だから、なのはちゃんのお金はかりられないよ」

「そう? ゆうまってば、けっこういじっぱりだね」

「なのはちゃんほどじゃないよ」

 俺達が顔を見合わせて思わず笑顔になった時、意外な声を聞いた。

「あ、あの、バニングスさん。い、いいよ、ここまでしてもらわなくても。代わりのものは、わたしがじぶんで買うから……」

「いいから。あんたのヘアバンドこわしちゃったのあたしなんだし、ヘアバンドの1つや2つぐらいよゆうで買える金ぐらいあるんだから、べんしょうさせなさいよ」

 昨日一悶着があった月村さんとバニングスだった。

 まだ学校も終わってない時間のはずなのに、何でこんなところにとなのはちゃんと一緒にかなり驚いた記憶がある。

「で、でも、まだがっこうだってあるし……」

「あんなじゅぎょう、1,2回サボったところで、どうってことないわよ。ほら、ついたわ」

 そして、俺達4人はばっちりと目を合わせてしまった。

「「「「あ」」」」

 全員驚きのあまり、しばらく硬直してしまっていたが、何とか俺が1番最初に再起動して、言葉をあげる。

「ズル休みは、よくないと思うよ?」

 すると、3人の少女が一斉に口を開いた。

「ゆうまくんが言えることばじゃないよ……」

「あんたが言うな」

「ゆ、ゆ、こひなたくんも、ズル休みしてると思うんだけど……」

 そして、4人で顔を見合わせて、全員で吹き出してしまった。

 しばらくして、落ち着いてから、バニングスが俺達に向けて口を開いた。

「で、あんたたち、がっこうはどうしたのよ?」

 それに対して、俺達は正直に答えた。

「ぼくは、きのう、かなりおこられたことが聞いて、とてもがっこうに行けるきぶんじゃなかったから……」

「ゆうまくんといっしょにがっこうに行くつもりだったけど、この子が行きたくないって言ってどこかべつのところに行こうとしてたから、付いて行っておともだちになろうと思ったの」

 なのはちゃんが俺の名前を呼ぶたびに、月村さんが何故か悲しそうな顔をしていたのが気になった。

「そう。あたしは、この子のこわしたヘアバンドをべんしょうしてあげようと思ってここにきたの。すずかったら、きょうしつの中ですごくしんきくさいかおしててあまりにむかついたから、がっこうおわるまえにむりやりひっぱってきてやったわ」

「わ、わたしはいいって言ったんだけど……」

 威張るバニングスに、慌てる月村さん。

 当時から正反対な性格なのにお似合いなコンビだったような気がする。

「そっか。ぼくもこわれたつきむらさんのヘアバンドのあたらしいのを買おうつもりだったけど、おかねがなかったんだよ。

なのはちゃんはかしてあげるって言ったけど、やっぱりぼくじしんのおこづかいで買いたいって思ったから……」

「あ、あのね!」 

 月村さんが急に声を張り上げた。

「わ、わたしのことも、きのうのときみたいに、なまえでよんでほしいのっ」

「え?」

「わたしのほうが、たかまちさんよりさきにおともだちになったのに、ゆうまくんがたかまちさんだけなまえでよぶなんて、そんなのやっぱりいやだもん」

「……」

 俺は内心で決意を決めて、月村さん……もとい、すずかちゃんと目を合わせてから頷いた。

「分かったよ、すずかちゃん」

「う、うん! ありがとう、ゆうまくん!!」

 この時まで見た表情の中で一番いいものを俺に向けてくれた。

「ったく、あたしらいることわすれて、イチャついてんんじゃないわよ」

「あ……ご、ごめん」

 バニングスに突っ込まれて、すずかちゃんが急に申し訳なさそうに俺から距離を取った。 

「まぁまぁ、アリサちゃんも、そうかっかしないの」

「ふんだ。おこってなんかないわよ」

 なのはちゃんが宥めようとすると、バニングスが照れくさそうに彼女から顔を背けた。

 そして、俺達を睨むように見た。

「ゆうまにすずか!」

 そんなバニングスに驚いて俺達は身を竦めてしまった。

「ふ、ふぇ!?」

「な、なんだよ?」

 昨日の喧嘩のこともあって、思わず身構えていたら、彼女の口から出た言葉に毒気を抜かれてしまった。

「バニングスなんてたにんぎょうぎによばないで、あたしのことはアリサってよびなさいよ」

 俺とすずかちゃんは呆気に取られていたが、別に拒絶するような要求ではなかったので、2人して頷いた。

「アリサちゃん……でいいよね?」

「分かったよ、アリサ」

「……分かればいいのよ」

 またまた恥ずかしそうに目を背けるアリサの顔に絆創膏が貼ってあったのを見て、俺は再び罪悪感を覚えてしまった。

 ……謝らないといけない。

 そんな使命感に駆られて、俺は海外出身のクラスメイトに向けて、口を開いた。

「アリサ」

「なによ?」

「その…………ごめん。きのうは、いきなりなぐりつけちゃって」

 俺が頭を下げるが、アリサは全然気にしていない様子だった。

「いいわよ。きのうのあたしはなぐられてとうぜんだったんだし。それにいつまでもすぎたことをうだうだ言うほど心はせまくないわ」

 何にしても、許してもらえたようで俺はホッとした。

 それ見届けたなのはちゃんが、大きく微笑みながら最後に口を開いた。

「これで、わたしたち4人はみんなおともだちだね!」

 俺も、すずかちゃんも、アリサも、なのはちゃんの言葉に否定はせずに、ただ彼女につられて笑うだけだった。

 

 

 結局、壊された代わりのヘアバンドは、俺となのはちゃんとアリサの3人で「友情の証」として、それぞれ金を出しあって買ってプレゼントした。

 すずかちゃんは若干遠慮していたけど、最終的には嬉しそうな顔で受け取って自分の頭に付けた。

 それから、近くの公園で弁当を食べてから、学校が終わる時間にいつも麻衣と遊んでいる公園に4人で行き、なのはちゃんとアリサのことを紹介した。

 彼女はすぐに2人の新しい友達のことも受け入れて、日が落ちる前にはすっかり仲良くなっていた。

 帰った後、かーさん達こそ何も聞かないでいてくれたけど、次の日学校に行ったら担任の先生に4人揃ってズル休みしたことをこっぴどく叱られてしまった。

 が、先生に解放されてすぐに俺達は笑顔を見せ合った。

 以降、俺は学校内でなのはちゃんとすずかちゃんとアリサの3人とほぼ毎日のように行動を共にするようになった。

 そして、この同じ学舎で出会い仲良くなった3人の少女とは、10年以上経ち進む道が違えた今でも掛け替えのない友人として親交を深めている。


気の迷いによって書かれた後書き

 今回の話では、台詞部分において、小1で書けそうだと思った漢字だけ変換させてもらっています。

 なので、多々読みにくい部分があるかもしれませんでしたが、受け入れてくださると僥倖です。

 アリサと雄真となのはの喧嘩のシーンに関しては、学習研究社から発売された『魔法少女リリカルなのは』(メガミ文庫)を参考にしておりますが、人間関係や喧嘩に至るまでの描写が小説のものと異なっております。ご了承ください。

 それはさておき、次回は小学1年冬、もしくは小学2年の春または夏、あるいは小学3年の春のどれかです。

 違いを簡単に説明すると小学1年冬は新キャラは登場せずに、すももと雄真が仲良くなる話、

小学2年春は『らき☆すた』の泉こなたや『乃木坂春香の秘密』の綾瀬裕人との出会いと交流の話、

小学2年夏は『青空の見える丘』の今井秀樹との出会いの物語(速水伊織と共に友人関係となるのは小3夏)、

そして、小学3年春は、映画も絶賛上映中(2010年2月末現在)の『魔法少女リリカルなのは』本編で、フェイトと雄真やなのはとの出会いの物語となります。

 ちなみに、小3春だけは確実に書くと断言出来ますが、それまでの話は絶対に書くとは言えません。

 あと、フェイトとの出会いは原作通りジュエルシードなど異世界と魔法の要素を絡ませるか、全く魔法を絡ませずに海外からの転校生フェイト・テスタロッサとして雄真達と出会わせるかで迷っています。

 この後書きらしきものを読んでくださった方は、出来ればどちらがいいかご意見をくださると助かります。

 個人的には魔法無しの方が書きやすいと思ってます、バトルありませんし。

 魔法ありだと、バトル描写はしんどいけど、雄真の輝きが増すかもしれません。保障はしませんが。

 それと、アリシアを登場させるかどうかも迷うところ。

 魔法ありかなしかに加えて、ご意見をくださるとありがたいです。

 では、本編も含めて長々gdgdとした駄文に付き合ってくださったことに感謝しつつ、今回はこの辺で。

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